トップページ > 医学生の進路ガイド「解剖学(2)」

医師と言えども転職が当たり前の時代になってきました。その理由は様々ですがやはり、「これからのキャリアプランを考えて」、「年収をもう少し増やしたい」、「仕事に忙殺されていて、もう少し自分や家族との時間がほしい」と言った、誰もが納得できる理由が多いように感じます。一度しかない人生ですから、悔いのない生き方・働き方を選びたいものです。転職に悩んでいる先生方か、ぜひ素敵な仕事・職場にめぐり合えることを祈っております。

医学生の進路ガイド

  • 「解剖学(2)」

<解剖学教授M・I>

形態学は面白い。興味のある器官や組織をすぐにすりつぶして測定機器にかけるのではなく「場を観察する形態学」。

詳細な系統解剖・病理解剖・法医解剖で得られる所見から人体の発生過程や破格・疾患・死因などの原因を探って行く。動物実験でも同じ。生体から取り出した細胞や物質のみに焦点を合わせるのではなく、生体反応の現場を統合的な立場からも観ようというスタイル。時間軸を加えて観察すれば、生体反応の経時的変化から進化の過程まで辿ることができるダイナミックな形態学。

動きのない学問と思われがちの形態学で「自然(生命)の不思議・調和」を覗くことができるのである。今でこそ形態系をそう思える私であるが、学生時代には全くその認識を持てなかった。特に専門用語の暗記ばかりと思われた「解剖学」は実に退屈であった。

そういう私も臨床志向であった。高校時代までは、学校の先生、獣医、建築家、または遺跡や化石の発掘に携わる仕事などに興味を持っていた。しかし、慕っていた養護教諭に「とにかくおまえは医学部に行け!」と何度も説得され、何となくその気になり、二浪した後に香川医科大学へと進学した。

そこで「基礎医学」という言葉も存在も知らなかった私に強烈な印象を与えたのが免疫病理学教授であった。医学の教育・研究に自分のすべてを注ぎ込んでいた先生の姿に心を揺り動かされた私は、とにかく臨床医になる前にこの先生の弟子になろうと「病理学」の大学院生となり、「免疫学的精子形成障害モデルの作成と解析」に取りかかった。

卒後すぐ臨床医になるものと信じていた両親はビックリしていたが、私も、きれいな白衣を着て聴診器を首に掛け楓爽とキャンパスを歩いている同級生と挨拶する「汚れた実験着をはおった自分」にビックリした。

先生には、免疫系・生殖系の病態生理を探求して行く中で形態観察がいかに大事かを厳しく優しく教えていただいた。「ストレス学説」で有名なハンス・セリエ先生、そして我が国を代表する解剖学者、三木成夫先生の著書にも多大な影響を受け、「形態学の深さ」と「形態観察眼の養成の重要性」を教えられた。

大学院修了後は、母校で同じ形態系の「解剖学」で一つ助手の空席があるのでどうかといわれ、もう少し基礎医学を続けたかった私は解剖学助手となった。翌年には臨床へ行くタイミングを逸するかのような海外留学の機会を与えられ、いつしかそのまま解剖学に居着くことになった。

学生さんによく「なぜ解剖学を専攻したのか?」という質問を受けるが、その度に「はずみで」などと答えている。その「はずみ」とは、「形態系で光を放っていた先生方の世界を偶然知り、知らず知らずのうちにその世界に吸い込まれて行った」ということなのかもしれない。

場をじっくり観察しながら生命哲学を構築していく研究者達に魅せられて今の道にいるように思う。もし皆さんも、ふと臨床の現場から一歩下がって生命現象の場をじっくり観察してみたいという衝動にかられた際は、基礎医学の教室に一時的にでも立ち寄られてみてはどうか。運命が変わるかも。

自分で考える喜び、未知の世界に踏み込むロマン、そして新しいことを発見する感動が待っている。最後にセリエの著書にある言葉を添えて、この稿を終えたい。

「私は直接の感覚で捉えられるもの、形態で現される生命が好きだ。肉眼で見てわかる生体変化、顕微鏡で見える組織。これらが複雑な機器による生体反応測定よりも私にとっては意味がある。複雑な技術で生命をできるだけ損なわないようにするのが好きだ。自然という母が私に授けてくれた感覚器官で直接に観察できるときのほうが、自然像を歪めやすい機械装置を人間と自然の聞に置いたときよりも、ずっと身近に自然という母を感じる。」

分子生物学最盛期の現代においては、古くさい考えなのかもしれないが、どこか忘れてはならない精神だと思う。

<続く>

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